敷居テープ地獄の話
「敷居テープは簡単に貼れます」
世の中のパッケージや売り場の説明には、こう書いてある。
だけど、現場の職人からすると“簡単じゃない家”の方が多い。
特に、窓際の敷居だ。
日光をガンガン浴びる場所に貼られた敷居テープは、数年でパリパリに劣化する。
ポリエチレン系の素材は紫外線に弱い。
表面は粉のように崩れ、粘着は焦げた飴みたいに固まり、木に食い込んでいる。
お客さまから「これ、ちょっと剥がして新しい敷居テープを貼ってもらえない?」と頼まれる。
言葉だけ聞くと、簡単な作業に聞こえる。
貼ってあるテープを剥がして、新しいのを貼り直すだけ。
……のはずだ。
けれど、実際に手を入れると、**ここからが“悪循環のスタート”**になる。
劣化した敷居テープを少しめくるだけで、木部ごとベリっと持っていかれる。
敷居は古い家ほど柔らかく、光焼けして脆くなっている。
そこに強力粘着のテープが乗っているのだから、引き裂かれるのは当たり前だ。

裂けた木部は凸凹になり、ササクレが飛び出す。
この上から新しい敷居テープを貼っても、粘着面が均一に密着しない。
結果、すぐに剥がれる。
そして剥がれたテープがまた木部を削り、さらに凸凹になり、また剥がれる。
“敷居テープ地獄”の完成だ。
職人としては、できるならこの悪循環を断ち切ってあげたい。
実は、私はこの問題を解決するために専用の補修技術とオリジナルの下地プレートを持っている。
凸凹部分を平滑にしてから薄いパネルを敷居に馴染ませることで、新しい敷居テープがピタッと長持ちする。
やろうと思えばできる。
やれば綺麗になる。
お客さんも喜ぶ。
なのに、私はこの作業でお金を取りたくない。
なぜか?
それは、この作業が「商品」と呼ぶにはあまりにも“事情が複雑で、個別案件すぎる”からだ。
同じ敷居でも状態はバラバラで、紫外線の強さも、家の歴史も違う。
一律でいくら、とは言えない。
正直に価格を言えば「そんなにかかるの?」と驚かれる。
安くすれば、お互いに無理が出る。

※オリジナル道具「敷居滑り圧着器具」、敷居の幅21mmよりコンマ5mm小さくカットしただけの木片が救世主

それに、この作業を商品化すれば、
「敷居テープくらい簡単だろう」という世間のイメージとズレる。
そしてズレていることを説明するために、また時間と労力を払うことになる。
職人の経験値が高ければ高いほど、説明が増え、苦労が増えるという、皮肉な世界だ。
もちろん、頼まれればちゃんとやる。
でも胸の内では、
「敷居テープのために、こんな深い森に入り込む必要ある?」
という気持ちもある。
ただ、逃げたいわけじゃない。
むしろ逆で、やる以上は完璧に仕上げたい。
だから“完璧に仕上げるには料金が必要”という現実と、
“お客さんのために安くしてあげたい”という気持ちの間で揺れる。
この間で生じる葛藤こそ、職人の逡巡だ。
お客さんからすれば、「敷居テープ貼り替え」なんて些細に見えるだろう。
でも職人側から見れば、敷居という家の基礎部分に手を入れる作業は軽くない。
数ミリ剥がすだけで家の材が傷む。
これを一度体験した職人なら、簡単な作業だとは絶対に言えない。
最近は思う。
このブログのように、きちんと“現場の真実”を伝えることこそ、
お客さんにとって一番のサービスかもしれない、と。
お金を取るかどうかの問題ではなく、
「敷居の上にテープを貼るだけ」に見える作業の裏側には、
こんな構造があることを知ってもらう。
職人が抱える逡巡ごと伝えることで、
お客さんとの距離は少しでも縮まる気がする。
敷居は家の滑走路みたいなものだ。
そこをどう扱うかで、家の空気が変わる。
だから私は今日も、簡単に「はい貼ります」とは言わない。
敷居の状態を見て、歴史を見て、家全体の呼吸を見てから判断する。
目に見えない部分に手を入れるとき、
職人は必ず逡巡する。
でも、その逡巡こそが仕事の質を守ってくれる。
今日もまた、あの窓際の敷居を見ながら思う。
「簡単な作業ほど、実は簡単ではない」と。
敷居滑り地獄の流れ簡略版
敷居テープの怖いところは、「木部に食い込んだ粘着」が
紫外線で劣化して“剥がすと木が付いてくる”状態になること。
これが一度起きると、敷居は凸凹になり、
テープが貼れない → 剥がれる → さらに木が削れる → また貼れない
という循環が始まる。
これを私は“敷居テープ地獄”と呼んでいる。地獄から抜け出したい方はまずはご一報くださいませ

当店の特徴
その1・夫婦で貼替え職人をしています
その2・ご反響の電話には栗田洋子がでます、安心してご連絡くださませ
その3・見積もりには必ず栗田が伺います
その4・(社)茨城県南職人協会の理事であり工事の健全化に努めています
商材紹介
・襖張替え
お客様の声というコンテンツへの弊社の思い
当店ではHPに【お客様の声】というページを作っていません。その理由とは
保有資格
・宅地建物取引主任士
・ファイナンシャルプランナー
・証券外務員
・感染対策アドバイザー
・高所作業車操縦免許







